続・木洩れ陽の下で


3.
 薬が効いたのか、オスカルはふわふわと浅い眠りをまどろんでいた。夢の中で、まだ自分は手紙を書き続けていた。彼への手紙。オスカルは過去に恋文という類の手紙はたくさんもらった事があったが自分が出すとなると話は別だった。一体、何を書いていいやらさっぱりわからん。なぜアンドレはあんなに詩的な文章がすらすらと書けるのだろうと対抗心めいた感情が芽生えた。自分が書くと悲しいくらいにペンが先に進まなかった。気がつくとすっかり夜中になっていた。さて帰らねばと思った頃には体はすっかり冷えていた。

   やっぱり兵舎に泊まればよかったかも。

 帰り道、再び降り始めた雨はコートの上からさらに体の熱を奪った。帰宅するなり倒れこみ一晩中、熱でうなる事になった。

   こんな所を襲われたら逃げられないな。

 ふと、そう思った。でも彼は約束は必ず守る。もうこんな事はしないと言ったら殺すと脅されても絶対にしない男だ。それがかえって寂しい。そこまで思ってオスカルはパッチリと目を開けた。

   寂しい?何が・・・・。

 彼がもう自分を女として見てくれないのではないかと思うと言い知れぬ寂しさが心をよぎった。オスカルは、風に舞う銀杏の葉をイメージしてしまった。まだ枝に留まっていたいのに風で吹き飛ばされて最後は動物の肥料になってしまう可哀相な落ち葉。自分の姿が、それに重なり泣きたくなった。こんなにセンチメンタルな気分になるのはきっと熱のせいだ。
「ああ、起きたか。随分と気持ち良さそうに寝ていた。少しは楽になったか?」
アンドレは手元の封筒を持て遊びながら言った。

   あの封筒!

「アンドレ。水」
「喉、渇くよな。可哀相に」
「・・・・・」
「腹はすかないか?そろそろ昼だぞ」
「少しすいた」
「侍女を呼ぼうか」
「このままでいい」
「しかし、食べないとなぁ。そうだ。りんご剥いてやろうか?ちょうどここにあるし」
「メルシー」
「やっぱりやけに素直だな。たまには病気もいいもんだな」
「ふん」

アンドレがりんごに手を伸ばした。
「アンドレ。封筒をよこせ。書類を見る」
「あ、これか。はい」
オスカルはアンドレに背中の後ろにクッションを置いてもらった。
「どうだ?楽か?」
「大丈夫だ」
彼が離れたので彼女は書類に目を通しはじめた。
「ダグー大佐が急ぎって言っていたけれどサインが必要なんじゃないか?お前のサインなら俺がしようか?」
「いや、大丈夫だ。まだ期日はあるし・・・」

 アンドレは彼女の歯切れの悪い返答に違和感を覚えたが、とりたてて気にするふうでもなく器用にりんごを剥くとフォークを取りに食堂に下りていった。彼のいない間に、オスカルは封筒から大っぴらに書類を出した。

   書類とはよく言ったものだ。ダグー大佐・・・・。

 「ああ」と彼女はため息をついた。一体どの面さげて今度から出仕すればいいのだろう。よりによって副官に見られるなんて。これはどう見たって書類じゃない。
「オスカル?」
「わっ!」
その途端、彼女は書類を取り落としてしまった。
「落ちたぞ。こ・・れ?」
「返せ!」
書類を取り返そうとしてオスカルはバランスを崩してしまった。

   落ちる!

その思った次の瞬間に彼に抱き取られていた。






               
                    




         


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