チョコレートの贈り物 最終話  タンタンのママ様作

               
          
オスカルは、鏡を食い入るように見ていた。
髪をひとまとめにした自分は、あれほど、嫉妬したシルヴィー
だったから。すると、鏡の中のシルヴィーがにっこりと微笑み、
オスカルに問いかける。

「あなたは、アンドレの事、愛してるの?」
オスカルが驚いて、鏡の中のシルヴィーを見つめていると、尚
シルヴィーは問いかけてくる。
「私はアンドレの事、愛しているわ。ずーと、以前から。いいえ
 多分出会った時から・・・。あなたはどうなの。オスカル?」

オスカルはただ鏡の中のシルヴィーを見つめていた。
「もっと、素直になったら?あなたはアンドレの事を愛している
 のでしょ?アンドレと一緒の私に嫉妬したのでしょ?」
「・・・・・・・。」
「はっきり、言わなくてはだめよ。」
「お前は、誰だ。」

オスカルは鏡の中のシルヴィーに問いかける。
「ふふふ・・・。あなたには、わかっているはずよ。私が誰なの
 か。」
「・・・・・・・。」
「私はあなた。心の中の女であるあなたの心。心の中では、アン
 ドレと一緒にいたい。アンドレに愛されたいと思っているのよ。
 そうでしょ。オスカル」

「私は・・・。」オスカルが言いかけた時、
「素直にならなければ、だめ。チョコレートを渡して、素直に
 ”愛している”って、言ったら?幸せを取り逃がすだけよ。
 私は幸せになりたい。アンドレの腕の中で・・・。そうでしょ。
 オスカル」
と、言ってシルヴィーは、にっこりと笑った。

「幸せ・・・」
オスカルがボソリと、つぶやいた。
「今日の事は、セント・バレンタインからの贈り物。じゃあね。」
と、いうと、鏡から、シルヴィーは消えていた。


    


「・・・ス・・カ・・・。オスカル。どうした。鏡を見つめて?」
アンドレの声でオスカルは正気に戻った。
「いや。なんでもない。準備は出来たか?」
「ああ、後は馬車の用意をするだけだ。ちょっと、行ってくる。」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
と、オスカルはそう言うとにっこりと微笑んだ。アンドレはびっく
りしたようにオスカルの顔を見つめていたが、やがて優しく微笑み
返して、部屋を出て行った。

オスカルは、アンドレが部屋を出て行ってから、机の中に隠してい
たチョコレートを取り出して、しげしげと見つめた。やがて、ため
息をひとつつくと、自分の髪をくくっていたリボンを外した。

「オスカル、馬車の用意が出来たぞ。さあ早くお屋敷に帰ろう。」
と、アンドレは、ドアを開けて入ってきた。
「そうだな。アンドレ、ちょっと、こっちに来てくれないか。」
と、オスカルは、自分の方にアンドレを呼んだ。
アンドレは、ヤレヤレと、いう感じでオスカルの方に行こうとする
と、オスカルもアンドレの方に歩き出した。

「手を出せ。」
オスカルが、そういうと、アンドレは首をひねりながら手をオスカ
ルの前に出した。オスカルはチョコレートをアンドレに渡した。
「な、なんだ。コレは?」
「チョコレート。今日はバレンタインだろう。私が作ったから、見
 栄えが悪いが、味の方は、ロザリーの保障付だ。」
「オ、オスカル」
アンドレは、びっくりして、オスカルとチョコレートを交互に見て
いた。

「・・・・・・・」
オスカルは、はたから見てもわかるぐらい、頬を染めていた。
「ありがとう。オスカル。」
アンドレは、言った。
「深い意味はないぞ。勘違いするな。」
と、オスカルはアンドレの顔を見ずに言ったが、すぐに、
「帰るぞ」
とオスカルはアンドレの横をぬけて、ドアの方に行った。ドアの取っ
手に手をかけて、オスカルは思った。

(まただ。私はいつも素直になれない。
      でも、今日は・・・。今日こそは・・・。)

チョコレートの包みを見つめているアンドレに聞こえるか聞こえな
いかの小さな声で
「愛しています。アンドレ」
と、オスカルは囁いた。
「え、今なんて・・・。」
アンドレは驚いて、オスカルの手を取ると、自分の方を向かせた。

(今、オスカルが”あいしています”と、言った・・・。
                       聞き間違いか。)

「聞こえなかったのか。じゃ、内緒だ。」
と、オスカルは、アンドレの顔を見つめながら、言った。オスカルの
顔は、いつもの男まさりの女隊長の顔ではなく、はかなげな女の顔で
あった。その顔を見た、アンドレは、オスカルの手をぐっと、引っ張
ってオスカルを抱きしめた。

「オスカル、俺も愛している。」
「なんだ。聞こえていたのか。」
と、クスクスと笑いながら、オスカルは言った。
「出来たら、もっと、大きな声で言ったほしかったな」
「無理を言うな。コレでも、勇気を振り絞ったのに・・・。」
オスカルはそう言うと、恥かしそうにアンドレの胸に顔を押しつけた。

「愛している。お前だけだ。」
アンドレは、オスカルの顎に手をやると、オスカルの顔を上を向かせて、
口付けをした。オスカルは思った。

(そうだ。私が望んでいたのは、この腕の中の暖かさ。昔から、知って
 いた唇の触れた感触。自分の中に流れ込んできた暖かな思い。ああ、
 アンドレ、私のアンドレ)


    


それから、二人は屋敷に帰って、チョコレートを食べた。以前のように。
ただ、ひとつ変わった事と言えば、二人の座る位置だ。以前なら、向かい
同士であったが、今は隣に座っている。オスカルはアンドレの腕の中で、
アンドレはオスカルを自分の腕の中で抱きしめながら、チョコレートを食
べている。

その夜、オスカルはアンドレの腕の中で夢を見た。自分とアンドレの結婚
式だ。バージンロードを二人で歩いている時も、神の前で永遠の愛の誓い
をたてている時も、式が終わって教会から二人で出てくる時も、オスカル
は、アンドレと目が合うと恥かしげに微笑んだ。

アンドレの方もそんなオスカルの事をいとおしそうに優しく微笑み返した。
オスカルはそれだけで、幸せだった。
「オスカル、愛しているよ」
アンドレはオスカルの耳元で囁いた。オスカルは頬を染めながら、
「私も、愛している」
と言った。

「この頃、素直だな。」
「うん、或る人と約束したから・・・」
「誰と?」
「ないしょ。」
と、オスカルはにっこりと微笑んだ。その顔はシルヴィーそのものだった。

                                      
                               一応Fin 続編あります。


   


『あとがき』
タンタンのママ様。光栄にもうちで初デビューでございます!シルヴィーの
オスカル様への問いかけが良かったですね〜。あと彼女がぶっきらぼうにチ
ョコを渡すシーンが好きです。タンタンのママ様有難うございました。
                                         By無窮

       
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