チョコレートの贈り物 最終話 後編  ピカりん♪様作 

                         
「アンドレ?!アンドレ?!」
額に脂汗を浮かべたアンドレがうっすらと目を開けると
ベッド脇で心配そうに覗き込んでいるオスカルの瞳には
涙が光っていた。

「す、すまなかった…そんなに頬が腫れてしまっ て…
 私のせいだな、アンドレっ…。こんなになるまでひっ
 ぱたく積もりはなかったんだっ…!」

アンドレがベッドに入る前に作った氷たっぷりの水枕が
泣きじゃくるオスカルの手の中にあった。

「許してくれ!アンドレっ…! 愛している!愛してい
 る……!お前はもう、こんな私 は嫌いになってしま
 ったか!?」

アンドレはベッドから半身を起こして、しゃくりあげて
いるオスカルの金髪を優しく撫でそして恐る恐るではあ
るが、優しく両の腕にオスカルを抱き留めていた。
かつての自分の罪を思い起こし、怖がらせない様に、そ
っと、そっと。短い時間の様にオスカルにもアンドレに
も感じられたが、実際には二人は抱きあったまま、随分
長い時間そうしていた。

「泣かないで…オスカル。俺は…お前以外の女に目を向
 けた事なんかない。愛しているよ…オスカル…。未来
 永劫、俺の愛する女はお前だけだ。それに、誤解しな
 いで。お前に打たれた位でこんなに頬は腫れやしない
 さ…。」
「でも…、そんなに腫れているじゃないかっ…!」
「これは…」
言いよどんだアンドレの腫れた頬に、触れるか触れない
かの優しい口づけがふってくる。
「…明日…、歯医者に行ってくるよ…。」
「私もついていく。いいだろう?」
「衛兵隊の仕事はどうするんだ。お前は、俺独りのもの
 じゃない。」
「分かっているんだろう?私は…もう…お前無しでは一
 時もいられない…!それに、お前の看病だってしてみ
 たい…。」
「看病といえば…、夢の中に、お前そっくりの看護婦が
 出てきたぞ。シルヴィーって名前だった。」
「シルヴィーだって!?」

オスカルは驚愕する。

「夢でお前は相当うなされていたが…、そ、そのシルヴィ
 ーとやらは、夢の中でお前に何をしたんだ?」
「なんだ、妬いてるのか(笑)?」
「ば、バカを言うな!お、お前の夢に私そっくりの女が出
 てきたというから興味がある、ただそれだけだ!」
「何も無かったよ。看護婦と患者、
 ただそれだけだった。」

オスカルそっくりのシルヴィーが、ヴィクトール医師と仲
睦まじげに同じ職場で働いていたなどとアンドレは言いた
くなかっただけだったのだが、オスカルはそれを聞いてホ
ッとしている様だった。
そんな『嫉妬』という感情を隠せないオスカルがたまらな
くいとおしい。





「ところで、アンドレ…。何か忘れてはいないか…?」
「ん?」
「私は…お前に愛の告白をして、お前も返してくれた…。
 私たちは、その…恋人同士になったと考えてよいのだろ
 う…?」
「愛しているよ…オスカル…。お前に口づけもしたい…。
 お前の作ってくれたオランジェットも食べたい…。
 でも、明日まで待ってくれないか?」
「ふふふ…。楽しみは、待てば待つほど倍増する…
 かな…?」
「でも…少し位、前祝いをしても…いいかな?」
今度はオスカルの唇に花びらが舞い降りたかの様にアンド
レが触れる。

「…あ…」

オスカルは、アンドレの腫れていないほうの右頬を指さし
た。
「アンドレ…こんな所に吹き出物があるぞ…。」
「お前だって、チョコを作りながら沢山味見をしたんじゃ
 ないのか(笑)?ほら、鏡を見てみろ、左頬に…。」
「ホントだ。…吹き出物同士もキスをしてしまったな(笑)…」

互いの吹き出物をつつきあって、頬を寄せ合って笑う二人は
かつて、チョコレート鑑賞会を恒例としていた頃の二人だっ
た。

いや、少し違う。

『アンドレに愛されたい・アンドレを愛している』という自分
の本心を認めてしまったオスカルと、そのオスカルの本心を知
ってしまったアンドレが元の幼なじみに戻れる筈が無い事はお
互いに知っていた。





翌朝、とうとう戻ってこなかった部屋の主のテーブルの上で役
目を失ってしまったオランジェットが、爽やかなオレンジの芳
香と甘やかなカカオの香りを漂わせていた。 
                                  Fin



『あとがき』
本編作者の無窮様に敬意を表し、夢おち、シルヴィー出演など
盛り込み、更に、後編だけは真面目調にて書いてみました。
途中、品のない表記などあったかもしれません、御目汚しだっ
たかと思いますがギャグ調を目指した為という事で、何卒ご容
赦下さい…。                     ピカりん♪様談



こちらこそ、楽しいアレンジにしていただき有難うございました。
キュイ〜〜ンが頭から離れません。           By無窮


       
[PR]動画