チョコレートの贈り物　最終話　中編 　ピカりん♪様作　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

「開けてもいいか？」

こんな事を聞いてはみたけれど、実は、俺は中身を知って
るんだ、オスカル。

コクンとうなづくオスカルの目の前で、精一杯の笑顔を作
ろうと努力するが…
い、いけない…、オスカルに誤解されてしまう。
違うんだ、オスカル、俺の言葉はただひとつ、俺のお前へ
の愛に偽りなんかないんだよ〜。

「少し…不格好だが…その…私が作ったオランジェットだ。
　お前に食べて欲しくて…。」

笑顔、笑顔、嬉しそうな笑顔を浮かべなくちゃ…。
うっ…頬がひきつる…。

「ありがとう…オスカル…。嬉しいよ…。
　それじゃ、おやすみ…。」

そんな悲しい顔しないでくれ…。
お前からの贈り物を俺が嬉しくない訳がないじゃないかっ、
ましてや、料理などした事のないお前が作ってくれたチョ
コレート菓子。しかも、おばぁちゃんにも隠れてこっそり
食べる位大好きなオランジェット♪

見た目なんか問題じゃないっ！（とここまで言ったら怒ら
せちゃうから言〜わない。）
ヴァレンタインに手作りチョコを俺にくれるだなんて、
俺の積年の突き上げる熱いものを解き放てる日が来たんだ
と思っていいのか！？

あぁ、食べたい…チョコもオスカルも食べたい食べたい食
べたい…！だけど、水さえも飲めない今、チョコなんてと
んでもないんだよぉ。どうか、許してくれ…。


バシーーーーン！


あぁ、完全に誤解されてしまった。
しかし、オスカル…、よりによって左頬を殴ってくれるな
んて余りの痛みに、な、涙が止まらないよ。俺達はこんな
所も以心伝心なのかな。

でも、ロザリーに頼まれて試食しまくったチョコのお陰で
左の奥歯が痛み出したなんて事、言えないんだ！お前のプ
レゼントの中身を既に俺が知ってるって事を白状する様な
もんだろ？

例え何があってもオスカル様には秘密よ！と念を押されて
いるし…
オスカルは『私の春風』などと呼んでいるが、知らぬが仏、
あれでロザリーは恐い女だからな。今頃ベルナールも頬を
冷やしているかもしれないな、ククク…。

それに、こんな頬の腫れたみっともない顔でオスカルに接
近して、キッスなんて出来ないよ！
あの『白く輝く歯の為に、エチケットライ●ン』の歯タレントに
なれそうな程美しいオスカルの歯に、俺の虫歯菌が伝染っ
ちゃうじゃないか！

オスカルが笑ったらお歯黒だなんて、そんなの俺には耐え
られない！ひゃくねんの恋も醒めてしまうではないか！
って言ってみても、俺は、オスカルのただの幼なじみの腰
巾着。まだ、今の所はね。むふふ…。

しかし、痛い…。
オスカル手作りのチョコも食べられない、愛しいオスカル
のさくらんぼの様な可愛い唇にキッスも出来ない、
誰でもいいから早くこの痛みから解放してくれ〜。
歯医者には明日行くとして、とりあえず痛み止めでも飲ん
でみるか…。





今日、アンドレは、衛兵隊を休んでいる。
重い足を引きずり、向かった先は…？

『ヴィクトール歯科医院』

ラソンヌ先生に紹介して貰った歯科医院。
名前がちょっと気になるが、腕はラソンヌ先生のお墨付きだ
しまぁ、いっか。

歯科医院のドアを開けると、そこには白衣姿の長身の金髪の
女性が…。
おや？と思ったら、名札は
『シルヴィー・Ｇ』
そうだよな、そんな訳がないよな。あいつは今日、
ぷんぷん怒ったまんま一人で衛兵隊に出勤して行ったんだし、
第一こんなところに居る筈がない…。
しかし、よく似てるな…。

「いらっしゃいませ。アンドレ・グランディエ様。
ラソンヌ先生から伺っておりますわ。
さぁ、診察室へどうぞ。」

恐る恐る促された診察室に入ると…
瓶底眼鏡をかけてはいるが…ふわふわした鳶色の髪に
微笑をたたえた薄い唇の白衣の男。…これはどう見ても…？

アンドレが椅子に座るのを躊躇していると、
シルヴィーが女性とは思えぬ程の力強さでアンドレを椅子に
かけさせる。
「ヴィクトール先生。アンドレ・グランディエ様の準備が出
来ました。」

「チョコレートの食べ過ぎで歯が痛むと…？
いけませんね、ムッシュウ。 患者である貴方の痛みは歯科
医である私の痛み…。 貴方が不幸なら、私もまた不幸な人
間になってしまうのです…。」

な、何だかどっかで聞いた様な…。
やっぱりこの歯医者にかかるのはやめよう…。
診察台から降りようとしたアンドレを押さえつけているのは…
シ、シルヴィー！？
どうしてそんな凄い力が！？
し、しかも…
俺の顔を押さえつけるこの冷た過ぎる手はいったい！？

や、やめてくれ！そんな〜！！あ゛〜〜〜〜〜〜〜っ！！
ギュイイイイイイイイイイーーーーーーーン
ギュルル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく