チョコレートの贈り物 5話

            
再びアラン兄妹。
「さあ、そろそろお暇するわ。兄さん」
「もう少しゆっくりしていけばいのに」
「あら!もしかして兄さんにも誰か良い人がチョコレートを持ってきて
くれるかもしれないでしょ?邪魔者は退散、退散」
「ば〜か!そんな娘なんか、いねぇよ」
「それは、兄さんが知らないだ・け。兄さんてば、私の友達に結構もて
るのよ!」
「けっ!おめぇえみてぇな小娘どもにもててもしょうがないわな」
「あら?だったら、年上が好み?」

少しの沈黙が訪れる。
「ディアンヌ!大人をからかうものじゃねぇ。さっさと帰れ!」
「ふふふ〜。兄さんてば、やっぱり誰か好きな女性がいるのね?」
「うるさい!」
「これ、ありがと」
ディアンヌはアランから給食の食材を受け取ると、後ろを振り返りなが
ら帰っていった。


      


アランの頭の中には妹の声が木霊していた。
『あら?だったら、年上が好み?』
とたんに浮かぶ女隊長の顔。
まさか、俺はあの女を?宮廷の飾り人形と言われていた女だぞ。お供が
いなけりゃ何もできない女だぞ。どうしてあんな女のことを思い出す?

アランはかぶりを振った。赴任間もない女隊長を食堂に軟禁した。椅子
に縛り付けられた時、恐ろしいほどの視線でアランを射抜いた、あの力
のある眼差し!一瞬、体がびくつき、そんな自分を認めたくなくて蝋燭
の炎を女隊長に向けた。あの時の唇のきらめき・・・。まるで、男を誘
っているようになまめかしく見えた。

その情景を思い出しながらアランの足は自然に司令官室に向かった。特
に用もない。が、無性にオスカルの顔をみて悪態がつきたくなった。今
は、あの腰ぎんちゃくのアンドレもいない。さぁて、何をサカナにして
苛めてやろうか・・・。
それが、好きだという感情だとは青いアランは気がつかない。

-------!
向こうからあの客人が歩いて来る。アンドレと一緒だ。野郎もう帰って
きたのか?一分一秒でも大事な隊長を狼の巣窟には、ひとりにできない
ってか?

『は!たいそうな心がけだ』

だけど・・・。ありゃ?あいつ、いつもと違うぞ。あの客人と給湯室に
入っていった。それに知り合いって感じじゃないな。フェロモンという
か、それに近いものを感じるぜ。アランは給湯室の中の様子を伺おうと
した。

『へ!アンドレの弱みを握ってやるっ!』

彼は、そおっと給湯室に近づいたが足音が近づく気配にとっさに身を隠
した。それは、アランが今、一番会いたいと思った女だった。普段から
透明な肌が今日は一段と透けて見える。・・・というより蒼白?その瞳
は見開かれ、給湯室の半扉から何かを見ている。やがて、女隊長は全身
が小刻みに震え次の瞬間、腰のサーベルを引き抜くと給湯室の中のふた
りに向かってなにやら叫びながら飛び込んでいこうとした。

訳がわかんねえが、殺生事はやばい!アランは動いた。手と足を使って
オスカルを後ろから羽交い絞めにした。
「離せ!離さないとおまえもぶった斬るぞ!」
「隊長、落ち着いてください。相手はアンドレですよ?あんたの大事な
 アンドレで しょうが?」
「そのアンドレだから許せない!」

アランは中のふたりに向かって叫んだ。
「ここは、俺が押さえとく。なんか知らんがにげろ」
ふたりは、走り去ってしまった。その音が聞こえなくなった途端オスカ
ルは抵抗をやめ、アランの前で泣き崩れた。


      


「隊長。あんたが泣くなんて・・・。一体何があったんですか?」
質問には答えずにオスカルはただ、泣くばかり。鼻っぱしの強い女だと
思っていたのに・・・。その変貌振りにアランは、唖然とした。
「あんたも女だったんだな」
その途端、オスカルの中で何かが弾けた。

「アラン、おまえも貴族だったな?」
「?そうですけど」
「なら、わたしと結婚してくれ」
「は?」
「もう、男なんて信用できない。かつて、ジェローデルとの婚約を断っ
 たのは一体、何だったのだろう・・・」
「隊長・・・」
「アンドレの供でなければもう軍人を続けるのも嫌だ。人形でもいい。
 楽になりたい。アラン、これは命令だ。わたしと今から父の所へ行っ
 てもらう。ソワソンの名は今日限りで捨ててもらおう」
「で、大貴族のジャルジェを名乗れってか?面白いじゃねぇか?だがよ、
 俺にだってプライドがある。あんたに命令されたからではなく、力で
 あんたをねじ伏せた後なら考えてやってもいいぜ?」
「ふん、好きにしろ」
「じゃ、遠慮なく!」

オスカルは自暴自棄だった。アンドレはもういない。これから先、何も
望みはない。アランにこの身をくれてやるのも一興かもしれない。

アランの顔が近づいてくる。オスカルは目を閉じた。今度はその口付け
が自分の求めているものと違っていても拒否はするまい・・・・。
                 
アランの息使いを感じた。                        つづく


      
[PR]動画