チョコレートの贈り物 8話

            
『どういう事だこれは?』
オスカルは、まじまじと自分の顔を覗き込んだ。大して珍しい
顔ではない。生まれたときから、ずっとこの顔だ。それがなぜ
今こんなに違和感があるのだろう?

まるで、違う女・・・。そう、違う女。いつもと違う頼りなげ
な表情。

「オスカル?どうかしたのか」
「あ、いや。ちょっと・・・・」
アンドレはおかしなヤツと思いながら言葉を続ける。
「なかなか、似合うじゃないか?その髪型。デスクワークの時
もそうやってまとめたらどうだ?ロザリーもそのつもりでリボ
ンをくれたのだろう」

いや、そうじゃない。それは、この間お前にあげるチョコレー
トをロザリーに教わって作ったときに、溶かしたチョコレート
が、髪にべっちょリとつき、取るのに苦労したんだ。
「オスカルさま、髪をまとめたらよろしいのに・・・」
「あ、でも、似合わないから・・・」
髪をまとめると以前のドレス姿を思い出してしまう。あの時の
アンドレの苦しそうな表情。そう、わたしは、うすうすアンド
レの愛情に気がついていたのだ。

今までも、髪をまとめようと思ったことがあったけれどもアン
ドレの『陽に透けるお前の髪が好きだ』の言葉になんとなくま
とめられなかった。それに、わたしは、リボンにあまり良い
思い出が無い。

なぜなら・・・。

お前の髪を無理やりに切り落としてからは、くくるともくくら
ないとも中途半端な髪型になってしまったお前に気をつかった。
髪をくくると、嫌でも顔が強調されてしまう。その傷ついた片
目をよけいに人目に晒させるようで、お前の用済みになったリ
ボンを見るにつけ心が痛んだ。

「まあ、どっちでも良い。髪型を変えてもお前はお前さ。嫌な
 らやめておけば良い。しかし、ロザリーに会うときは一度く
 らいは結んでやれよ」
「うん・・・・」
「なんだ。まだ頭がはっきりしないのか?」
「いや、そうじゃない。ちょっと考え事があって・・・」
「ふ〜ん。じゃ、俺は戸棚の戸締りをしてくるから、その上着
 を羽織って寝台から降りて来い。ぼんやりしていたらいつま
 でたっても屋敷に帰れないぞ?」

アンドレは執務室の戸棚の鍵を掛けに行った。かちゃりかちゃ
りと鍵のこすれる金属音がする。オスカルはその音を聞きなが
ら上着を羽織った。釦をかけながら、シルヴィーの事を考えて
いた。

姉上に酷似した女。シルヴィー。でもあの顔はわたしそのもの
だった。なぜ気がつかなかったのか?アンドレと並んだときの
自然さ。それゆえ、わたしは、嫉妬に狂った。自分自身に嫉妬
したのか?滑稽だな・・・。

それに、あの物腰。彼女が気になって仕方がなかった。夢の中
でわたしは、自分の仕事を放り出してまでして彼女と話がした
いと望んだ。あれは、わたし?。アンドレに愛されたいと思う
わたしの本心が具現化したものか・・・・?

『アンドレに愛されたい』
ああそうだ。今、認めよう。わたしは、彼を愛している。幼馴
染ではなくひとりの男として・・・。      つづく


      
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