ファントム・ナイト




みやさん作


 あの甘いバレンタインの夜からちょうど一月経った今夜、勤務を終えたオスカルとアンドレは何時もの様に馬車に揺られていた。

 オスカルはアンドレの肩にもたれて、軟らかく髪を梳るアンドレの指先の感触にうっとりと目を閉じていたが、ふと感じた違和感に顔を上げて馬車の窓から外を覗いた。
「?アンドレ、道が違う。このまま行くとパリ市内だぞ」
「オスカル、お屋敷に帰る前に付き合って欲しい所があるんだ」
「どこへ?」
「それは着いてのお楽しみ。まあ、俺に任せて」
 そう言ってにっこり笑うアンドレにそれ以上なにも言えず、オスカルは黙ってもう一度アンドレの肩に頭を預けた。

        

 「アンドレ、ここは…」
着いたのは、あのレストランだった。
あの時と同じ部屋の前まで二人を案内してきたメートルは、なぜかドアの前でチップを受け取るとそのまま去ってしまった。
 いぶかしむオスカルの背を抱く様にしてアンドレがドアを開けるとそこには…。

 数え切れないほどの蝋燭の灯りが部屋中を蜂蜜色に染めていた。蝋燭は部屋から見える庭にも灯されていて、僅かな風にゆらゆらと揺れている。アンドレは、驚きのあまり声も無く立ち尽くしているオスカルを後ろからそっと抱きしめると、耳元で囁いた。

「ホワイトディのプレゼント、気に入ってくれた?オスカル」
それからオスカルの前に跪くと、恭しくその手を取って口づけた。
「我が愛しのクリスティーヌ。貴方に焦がれて止まないファントムに、今宵一時、ディナーを共にする栄誉と幸福ををお与え下さい」
「Oui,喜んで!」
オスカルは、頬をばら色に染めながら花のように微笑んだ。

 その後、このレストランのオリジナルディナー企画「ファントム・ナイト」が、オペラの人気とあいまってパリ社交界の話題をさらい、予約が殺到したとか。

曰く『恋愛成就に抜群の効果アリ』


メートル;メートルドテル−フロア全体を取り仕切るサーヴィスの責任者
(参考文献「Heaven?」佐々木倫子著)



       


『あとがき』
あの作品、続編が気になっていたので読めてラッキーです。みやさん、たくさんの蝋燭の光、幻想的でしょうねぇ。











   




                                                                                                             

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